商社の根回し仕事術(取引先編)
こんにちは。商社出身ITコンサルタントのヤマオです。
今回は商社流根回しの極意(取引先編)というタイトルで、自身の経験を記します。
取引先との関係を築くのに最も大切なこと
私は大学卒業後、国内の大手商社に勤務をし、エネルギー関連の部署で、石炭・天然ガス・LNGなどの燃料を海外サプライヤーや自社の投資プロジェクトから仕入れ、国内の電力会社や発電所を持つ大手メーカーに供給する仕事をしていました。
そのため、私の仕事の中で最も注力していたことの一つは、取引先である電力会社やメーカーのキーマンと関係構築をすること。
そして、そのために最も大切だったのは、取引先の社内決裁がスムーズに進むためのサポートをすることでした。
今回は日本の大企業に勤めるサラリーマンの誰もが苦労をする社内決裁にフォーカスしてみたいと思います。
大企業の社内決裁と傘連判状
大企業同士の取引の場合、契約規模が大きくなればなるほど、社内決裁の手続きが煩雑になります。
そのため担当者が『自社にメリットがあるから取引をするべきだ』と思っていても、そこから課長、部長、法務部門、経理部門、担当役員、金額によっては社長まで社内で承認をもらう行為が発生し、非常に面倒であるため、仕事を後回しにしたり、ひどい場合は自社のためになる取引であっても社内決裁が面倒なので取引をやめてしまうケースもあるのです。
私も大手商社の若手社員の頃、1つの契約を結ぶために社内の先輩、上司、関連部署や役員、副社長から合計12名のハンコを集めたことがあります。
社内承認書に朱色のハンコが12個並んだその様子はまるで江戸時代の一揆で用いられた傘連判状のようでした。
僕が所属していた総合商社では、特定の社員(役員)には責任を取らせず、社内承認書にハンコを押した全員の責任にしようという風土があり、みんなでハンコを押すのは意思決定が間違っていた際のリスクを軽減するための風習なのだと当時感じていました。
この方法はレベルの低い社員が暴走して、会社の損失になるような取引をするのを防ぐには非常に有効な方法である一方、総合商社には大抵優秀な人材が集まっているので、いたずらに社内決裁に時間がかかるだけの仕組みになってしまっているという実態があったのも事実です。
僕が聞く限り、他の伝統ある国内の大企業も、ほとんどが似たり寄ったりの社内決裁ルールのようで、働き盛りの若手、中堅社員はこの社内手続きで苦しみ、面倒だけど仕方ないかと思いながら、日々社内決裁や社内説明のための書類を作っているのです。
社内決裁をスムーズに進める根回し術とは?
話は戻りますが、僕は取引先から信頼されるためのポイントは、この面倒で時間のかかる社内決裁をスムーズに進められるサポートを出来るかどうかにあると考えて、常に行動に移していました。
例えばあるメーカーへLNGを販売する契約を締結する時に、メーカーの担当者はベテランだが、決裁権のある部長が新任でLNGに関してはほぼ素人であるという状況がありました。
早速このメーカー担当者を銀座で接待したところ
『ヤマオさん、個人的にはこの契約をすぐにでも前に進めたいんだけど、来たばっかりの部長が結構細かい性格でねぇ。ゼロから業界のことを教えて理解してもらうのに苦戦しそうだよ。』
との本音をポロリと漏らしていました。
このメーカーの場合、署名者である役員や社長が契約の妥当性を判断するために、契約書とともに社員が作成する和文の社内承認書を読み、そこに押された各部署の部下たちのハンコを見て関連部署のチェックが終わっていることを確認。
更に担当部長から対面での説明を受けることで、安心をしてサインを出来るという風習になっていました。
メーカー担当者は、この新任の部長が役員に契約内容や妥当性を説明するプロセスと、その前に担当者から部長にレクチャーをするプロセスが面倒であると考えていたのです。
このケースではメーカー内での社内決裁をスムーズに進めるためのポイントは、新任の部長が署名者である役員に契約の妥当性を説明する際の社内承認書作りにありましたので、僕は新任の部長に営業訪問した際に契約内容に加え、LNG業界の全体像(プレーヤーや価格決定方式等)について、自作の資料を元に説明し、ご理解いただきました。
その上でメーカー担当者には新任部長に説明した際の資料の電子データを渡し、文言や図表を加工して社内承認書に反映出来るようにしてあげました。
この私の配慮により、メーカー社内では手続きが迅速に進んだことも一因となり、数百億円規模の長期LNG契約を締結することが出来ました。
このケースのように国内大企業との取引でビッグプロジェクトを前に進めるためには、取引先企業内での社内決裁をスムーズに進めるための根回しが重要であることを学びました。
国内大企業でご活躍中の方、これからご活躍される方へ
私は今は異なるビジネス環境に身を置いていますが、現在上記の環境にいる方や、これから国内大企業での活躍を目指す方にとって、私の経験が少しでも参考になればと思い、書かせていただきました。
他の記事も楽しんでお読みいただけましたら、大変嬉しいです。ではまた。